2018年08月18日

島でなくても桜島(3)

 桜島に向かう船に乗った。船長室の傍らのベンチに腰掛けた。潮風を満面に受ける。対岸の姿が見る見る拡大されていく。その夜は桜島のユースホステルに泊まった。
 ここにはさまざまな若者が泊まりに来ていた。青春18切符で日本全国を旅している大学生とか。僕はスイス人の青年ともっぱら話していた。スイスはドイツ語、フランス語、イタリア語の地区からなっている。彼の母語はドイツ語だが、フランス語も英語も流暢である。僕は英語とフランス語を使ったが、やはり英語の方が話しやすい。
 夕食の後、彼と非常階段の上に出て、桜島の夜景を眺めながら話した。彼は桜島の山頂が立ち入り禁止になっているのを残念がっていた。最後に噴火したのはいつかと言うので、城山で買った桜島の写真を見せた。真っ赤になった山頂と、立ち上る噴煙、そこに走る稲妻。信じられない! 写真にフィルターでもかけたのか、本当に超現実的だと英語で話していた。
 ちょうど、百武彗星というのが地球に接近していた。肉眼でも確かめることができた。北斗七星のすぐ下にあり、ぼんやりと大きく明るくなったり、暗くなったり、またたいているように見えた。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 00:00| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月17日

島でなくても桜島(2)

 城山に登ることにした。ここは西南戦争の舞台となった所である。小高い丘を小鳥の声を聞きながら林の道を進んでいった。展望台からは桜島と、隔てる海峡、そして鹿児島市内が一望に見渡せる。
 西郷隆盛も最期に、この風景を眺めたのだろうか。ちなみに、西郷が自刃したとされる洞窟は、ここからはかなり離れている。北東方向で日豊本線の線路脇に近い位置にある。西郷は果たして城山で死んだのだろうか。
 明治の元勲だった西郷が、不本意な死を遂げるはずがないと、多くの人々が当時から思った。ロシアに亡命したという噂が流れたが、これは源義経が平泉では死なずに、モンゴルに渡ってチンギス・ハンになったという伝説と同じである。「もうここらでよか」という言葉を残して自刃したというのが、やはり真実なのだろう。
 ただ、西郷のよく知られた顔は絵画ばかりで、弟の西郷従道と従弟の大山巌の顔を参考に、画家のキヨッソーネが描いた物が有名である。本当の顔が分からないことが、西郷亡命説の流布に拍車をかけたのでないか。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 00:00| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月16日

ぼくがダライラマ?(52)

 ついに満月の夜が訪れた。雲が切れて東の空から、赤みがかった月が昇ってきた。思いがこもったような色に、これまでにないほどおののき、興奮を覚えるのだった。行かないという選択肢はなくなっていた。
 夜が更けていった。侍従も床についたようだった。ぼくは用意してあったランプに灯を点すと、薄暗いポタラ宮の廊下を抜けて行った。見張りの兵士には黙っているようにと言い、小銭を握らせておいた。あいつらはぼくの性癖を知っているのだ。野山を駆けまわっていた若者が、剃髪して僧形となっても、巨大な牢獄のような宮殿に、おとなしくなどしていられないことを。
 ポタラ宮を抜け出すと、冷ややかな風が頬を打った。柳の垂れ下がった枝が、幽霊のように左右に揺れ動いている。振り返ると、明かりの消えた宮殿は、輪郭がかろうじて見えるほどだった。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 00:00| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする