2018年05月25日

ぼくがダライラマ?(45)

 摂政が戻ってきた。ぼくは書簡の中で、パンチェン・ラマが何とおっしゃっているのかと思った。随分お目にかかっていないが、どうしておられるだろうか。
「いや、これはわしに当てられた物であるから、ご覧に入れるわけにはいかないんだよ」
 もったいぶった言い方に、ぼくは苛立ちを覚えた。形だけは崇められても、所詮ぼくは操り人形でしかないということだ。
「清の康煕帝や、モンゴル王のラサン・ハンが、猊下についていろいろ言って来るので、パンチェン・ラマもお心を痛めておられるのだ」
 またあのことかと思った。ぼくが成人するまで、国境近い山奥の僧院に閉じ込められ、ダライラマ五世の崩御が隠されていたという問題についてだろう。俗人の姿で狩りなどしていたぼくが、突然、ダライラマに祭り上げられたんだから、疑わしく思われてもしかたがない。
「猊下は心配なさらないでいただきたい。猊下にとって最も大切なのは、修行にいそしんで観音菩薩としての徳を身に着け、一日も早くご立派な姿でチベットに君臨していただくこと。清やモンゴルの使節がやってきても、何ら不審に思われることがないような、高貴な品性をお持ちいただくこと」
「そんなこと言われても……」
「だから、わしの言うとおりになさってくださればいいのです。パンチェン・ラマには、猊下当てのお手紙を下さるようにご返事しておこう」
 奥方が出てきた。テーブルで小さくなっていた娘も立ち上がった。玄関に向かうところで、控え室にいた侍従が待っていた。別れの挨拶をして立ち去るとき、ぼくは娘の顔を見たが、目で合図を送ってくるようなことはなかった。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 02:18| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

高野敦志編『高野邦夫詩撰』(ePub)

 高野邦夫は昭和3(1928)年、現在の川崎市幸区に生まれました。太平洋戦争末期に予科練に入隊。戦場に送られる前に終戦を迎えました。戦後は国語の教員を務めるかたわら、詩を書き続けました。日本詩人クラブや俳人協会の会員でした。その詩は自らの戦争体験や動植物、猫や蝶などへの共感、家族、とりわけ母、高野ことへの思いを中心につづられています。中でも『定時制高校』や『川崎』などは、各種の新聞でも取り上げられました。糖尿病や腎臓病と闘いながらも、晩年に到るまで詩作に集中しました。平成9(1997)年、手術後の体力低下に伴う敗血症がもとで亡くなりました。享年は68歳でした。
 すでに長い年月が経ち、父の著作の多くは絶版状態です。そこで、私がそれらから比較的読みやすく、心に響く詩を厳選してここに紹介いたします。下のリンクをクリックしてダウンロードして下さい。なお、原文の改行位置を尊重したために、不自然な位置で改行されて表示された場合は、字の大きさを若干小さくしてご覧下さい。
kunionoshi.epub

 iTunesからダウンロードする場合は、ミュージック→iTunes→iTunes Music→podcasts→当該のフォルダの下に、ファイルが入ります。
 IEでダウンロードした場合は、拡張子をzipからepubに変えて、下記のアプリでご覧下さい。

 ePubはiOSのiPadやiPhoneなどで読むのに適した形式です。iBooksなどでご覧下さい。Windowsでは紀伊國屋書店のKinoppy(http://k-kinoppy.jp/for-windowsdt.html)が、最も美しくePubのファイルを表示します。

 ブラウザからePubを開く場合、Edgeならプラグインなしで読めます。Googleのchrome(https://www.google.co.jp/chrome/browser/desktop/index.html)なら、プラグインのReadium(http://readium.org/)をインストールして下さい。
 firefox(https://www.mozilla.org/ja/firefox/new/)にもプラグインのEPUBReader(https://addons.mozilla.org/ja/firefox/addon/epubreader/)があり、縦書きやルビなどにも対応しています。

 なお、パソコンのiTunesで「購読」したり、iOSのアプリpodcast(https://itunes.apple.com/jp/app/podcast/id525463029?mt=8)でマイpodcastに登録すれば、確実に新しいエピソードが入手できます。 


以下に高野邦夫の著作を挙げます。

詩集

『寒菊』(1962 五月書房)
『氷湖』(1978 昭森社)
『燦爛の天』(1980 昭森社)
『定時制高校』(1982 昭森社)
『川崎』(1983 昭森社)
『修羅』(1984 昭森社)
『彫刻』(1985 昭森社)
『曠野』(1985 芸風書院)
『銀猫』(1986 昭森社)
『日常』(1987 昭森社)
『川崎(ラ・シテ・イデアル)』(1989 教育企画出版)
『短日』(1991 吟遊社)
『峡谷』(1993 吟遊社)
『鷹』(1994 吟遊社)
『敗亡記』(1995 吟遊社)
『廃園』(1998 遺稿 吟遊社)

句集

『高野邦夫句集』(1987 芸風書院)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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