2018年04月12日

ぼくがダライラマ?(43)

 その日の夕方、ぼくは摂政の私邸に招かれた。鬱屈した生活を送っているのを心配し、心からの歓待をしようとしているのか。これについて、ぼくはあれこれと憶測した。家族から引き離されたぼくを哀れんでいるんじゃない。いまだに埋まらぬ溝を埋めるために、警戒心を解こうとしているのだ。神殿の壁画を見せたというのも、ぼくに心を開かせることで、父親のように振る舞おうとしているのではないか。
 摂政の屋敷はラサの中心街にあった。寺院建築を模したもので、金色に輝く屋根ばかりか、柱に取りつけられた装飾の金具、バターのランプなども黄金が用いられ、世俗的にこの国を動かすためには、富の集中が必要なことを示していた。中でも目を引いたのは、豪奢な家具に刻まれた、花や蝶の細密な木彫りの技で、金粉を塗りたくった上に、極彩色の顔料をほどこし、光沢を出すために透明な塗料もかけられていた。
 すでに日は落ちて、並べられた銀製の茶碗に熱いバター茶が注がれていた。向かい側には摂政と、摂政の奥方が腰をかけていた。くぼんだ目をした奥方は、召使いの女にあれこれ指示を出しながらも、ぼくの方を興味ありげなまなざしで見ていた。
 摂政には子供がいるはずだ……。神殿の池の前に現れた謎の女が、果たして摂政の娘であるか、確かめてやるいい機会だと思った。とはいえ、ここにはその姿はない。ぼくに会わせたくないのか。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 00:21| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする