人が周りにいなければ、鳥の声、虫の声さえ聞こえる沈黙が支配する。白樺に留まったカラスさえ、辺りの静寂に耳を傾けている。眺めていても飽きることがない。ハイビジョンの4K画面を見ているように、色そのものが快楽なのだから。
唯一の悩みは、飛んでくる虫だ。季節にもよるのだろうが、羽蟻の数が半端じゃない。払っても払っても飛んでくる。そして、動画を映している腕や顔に留まる。カメラが手ぶれを動かすから、じっと耐えているしかない。 しばらくすると、薄雲が上空に現れた。湖面は幾分白んできて、感動させる青さは薄れる。摩周湖は霧や雲に閉ざされることが多く、くっきり湖面を仰ぐことができるのは運がいい。ただ、摩周ブルーを目にした人は婚期が遅れるというジンクスがある。三度訪れて三度ともくっきり湖面を拝めた自分は、やはり結婚とは縁がない人間だった。(つづく)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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