「あなたは私を知らない。私はあなたを知ってる」
呆然としている隙に、ダムニェンを奪われてしまった。女は岩の上に腰掛けると、先ほどぼくが弾いていた曲を繰り返した。一度聞いただけでそらんじるとは、やはりただ者ではない気がした。
女は弦を弾く手を止めると、いぶかる目でこちらを見上げた。
「もしかして、私の言葉を真に受けてるわけ?」
「君はいったい、何者なんだ!」
「あなたはまだ子供だわ。お母さんの顔しか覚えてないんだわ」
女はダムニェンを岩の上に置くと、小走りで走り去っていく。ぼくは追いかけようとしたが、女は池の中に小石を投げ入れた。それに気を取られているうちに、女の顔は闇の中に沈んでいった。
「私は摂政の娘……」
「まさか! 名前は?」
「教えない。あなたに魂を奪われたくないから」(つづく)
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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