寅次郎が向かったのは知床だった。ヒッチハイクで獣医の順吉の車に乗せてもらい、そのまま、居候することになる。妻を失った順吉には一人娘のりん子がいた。反対を押し切ってした結婚に失敗し、故郷の知床に戻ってきたのだが、父と娘で顔をつきあわせるのは気まずい。寅次郎が間に立って、二人の仲を取り持つことになる。
順吉の身の回りの世話は、スナック「はまなす」のママ悦子がやっていた。二人は突っ慳貪な会話しかしないのだが、実は惚れ合っているのではないかと、寅次郎はにらんでいる。そこで今度は、順吉と悦子を結ばせようとするのだが。
順吉を演じたのは三船敏郎である。黒澤明の映画『羅生門』や『七人の侍』で好演した俳優である。大正生まれの三船が演じた順吉は、頑固一徹でかわいい娘りん子に対しても、本心を隠したままつらく当たる。大正生まれと言えば、第二次世界大戦で戦地に送られた世代である。頑固さにかけては、続く昭和一桁の父親よりまさっていた。
それを見ていて、中国大陸で軍医をしていて、終戦後に個人病院を開いていた一人の医師のことを思い出した。父親に逆らって画家を目指した娘を決して許そうとせず、母親は娘と密会することしかできなかった。順吉のりん子に対する態度を見て、連想せずにはいられなかった。予科練に入隊していた僕の父も、頑固さでは相当なものだったが、娘である僕の妹には甘かった。
りん子を演じていたのは、僕の世代にはアイドル的存在だった竹下景子である。『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』では、松村達雄が演じた住職の娘朋子役だった。清冽な印象を持っていた竹下が、朝ドラの『わろてんか』でついに祖母役で登場したのを見て、時の流れというものを感じさせられた。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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