2018年02月03日

知床は記憶の果てに(10)

 五湖の眺めは素晴らしかった。それから四湖、三湖と左回りで巡っていく。三湖のゆったりした湖面もよかったが、五湖の完璧な美しさにはかなわなかった。木々の枝が伸びて、知床連山の全貌を眺めることができなかったから。
 友人が慌てだした。このままじゃ最終バスに間に合わない。写真もそこそこに駆けだした。でも、鏡のような風景を撮影しないではいられない。大きさで言えば、二湖の方が奥行きもあるし、青い湖面に浮かぶ水草も鮮やかだ。五湖のこぢんまりとした完璧さより、連山を背景にした水の広がりに、魂の安らぎを感じるかもしれない。
 シャッターを切ると、もう友人の姿はない。全速力で走るしかないようだ。ようやく木橋が見えてきた。これも以前来たときにはなかった。熊が出てきても、橋の上からなら襲われる恐れはない。足腰に自信がない老人や、ハードスケジュールで連れ回される団体客には、手軽に一湖のみが眺められるわけだが、五湖の美しさに堪能したかったら、やはりすべての湖を見て回る必要がある。
 友人に追いついたときには、もう心臓がバクバクして限界に達していた。彼だけがバスに乗り、知床自然センターに戻って、知床五湖まで車で迎えに来てくれるというのだ。それならお任せすることにしよう。ゆっくり動画でも撮ることにした。
 時計を見ると、まだ三分ほど残っている。林の向こうにはバスの姿もあった。もしかすると間に合うもしれない。ひた走りして乗り込むと、後ろの席に友人が座っていて、手を振っている。その時、バスは発車した。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 04:23| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする