2018年01月17日

ぼくがダライラマ?(36)

 東の空から満月が昇ってきた。太陽の光を受けて輝く月は、夜の孤独を慰めてくれる光だ。自分がどこから来たかを教えていると、仏教では言うらしいが、ぼくには別れたままのお母さんの顔に見える。
 ぼくはダムニェンを弾き始めた。弦の響きに耳を傾けていると、抑えられていた心が開いていく。あの月は僕一人のために、夜空を照らしているわけではない。生死を繰り返す人間にとって、母なるものを象徴しているんだろう。

 東の山の頂(いただき)から
 白く明るい月が昇る
 まだ生まれぬ母の顔が
 ぼくの心に現れてくる

 人の気配を感じた。侍従に見つかったのかと思ったが、大して気にも留めなかった。微かな甘い香木の匂いが鼻をくすぐった。
 弾くのをやめて振り返ると、丸くて色白の女が立っていた。宝玉の髪飾りをつけているから、貴族か何かの娘だろうが、夕暮れに出歩くのは尋常ではない。
「そのまま、私はいないものと思って弾いて下さい」
 この香りは伽羅(きゃら)だろうか。若い娘にこんな近くで接するのは初めてだった。向こうは僕のことを知っているのか。
「私はこの池に住まう龍王の化身です」
 女は真顔で言った。なるほど、高貴な家の娘が、人気(ひとけ)のない池のほとりに出てくるはずがない。(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 04:12| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする