2017年12月26日

男はつらいよ 旅と女と寅次郎(第31作)

 歌手や俳優は人もうらやむ職業だが、本人にはつらいことも多いという。デビュー当初はろくに給料が払われず、ひとたびヒットすれば、過密なスケジュールを入れられて、自分の時間が持てなくなる。親の死に目にも合わせてもらえない。心に傷を負っても休めない。。
 演歌歌手の京はるみは、失恋したことや仕事に疲れ果てていたことで、ショーをすっぽかして逃げ出してしまう。事務所には「さがさないでね」と書き置きを残して。サングラスをかけて人目につかぬようにして。新潟の海岸で寅次郎と出会い、漁船に乗って佐渡に渡ってしまう。
 寅次郎との束の間の休息に、はるみの心は癒されていく。ショーをすっぽかしたことを悔やみながらも、人間らしい気持ちを取り戻し、海岸で自慢の美声を披露する。そこにプロダクションの社長らが追いかけてくる。すんでのところで漁船に乗り込み、小木の港に逃げ出すが、結局見つかってしまう。寅次郎との思い出を大切にして、はるみは芸能生活に戻っていく。
 柴又に戻った寅次郎は、魂が抜かれたような放心状態に陥る。その頃、若者に人気があったウォークマンを手に取り、金も払わずに持っていってしまう。聴いているのは京はるみの歌である。いかにも昭和の終わり頃の風俗で、ウォークマンも当時は携帯用のラジカセだった。商店が開店すると、チンドン屋が町を練り歩いていた。
 京はるみは柴又のとらやを訪れ、寅次郎と再会する。元気になった姿に安心するが、はるみが失恋した相手とやり直すと聞いて、寅次郎は心の底で思っていた人を失った気がして、またテキ屋稼業の旅に出る。
 京はるみは、言うまでもなく、演歌歌手都はるみのことである。この映画を撮影した翌年、「普通のおばさんになりたい」と引退を表明する。五年後に復帰するわけだが、その間にはつらい思いもしたらしい。都はるみのファンだった作家中上健次に、歌手生活がいやになったことを話すと、「ばかやろう」と怒鳴られたという。「お前な、お前の歌で心を動かされる人がいっぱいいるんだ。それをなんだ、恥ずかしいなんて」と。この映画を見ていると、気は短いが本音で語る寅次郎と、中上健次の姿が重なってしまう。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 03:17| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする