2017年11月08日

ぼくがダライラマ?(27)

 その日のうちに、ぼくはデプン寺内のガンデン宮に移った。そこは歴代のダライラマが住んでいた宮殿だった。岩山を背後に抱えながら、白い壁に黄色い窓枠、金色の屋根が青空に突き出ていた。
「隣の部屋は何ですか」と尋ねると、侍従は不思議そうな顔をした。
「ご存じないのですか」
 侍従に連れられて、ぼくは経蔵室に入った。薄暗い部屋の中は、木版刷の経典のほか、チベットの最大宗派、ゲルク派の開祖ツォンカパが使った法帽や、琥珀で作った数珠、それに紐で結ばれた二枚の鉦、ティンシャもあった。これは幽閉されていた僧院で目にしたことがあった。目の高さで縁を打ち合わせると、脳天を突き抜ける鋭い音がして、部屋の空気を張り詰めさせた。
 ここでは全く違う時間が流れている。草原を走り回っていた幼い頃、僧院に幽閉されてからも、しばしば抜け出しては、野山で狩りをしていたっけ。一日は瞬く間に過ぎていったのに対し、ここでの時間は重苦しく一向に進まない。自分が本当のダライラマなら、ここに来て懐かしさで涙が出るはずなのに、逃げ出したくなってる点からしても、自分がチベット再興に尽くした五世の生まれ変わりだというのは、何かの間違いなのだろう。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 02:58| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする