2017年11月04日

ぼくがダライラマ?(26)

「長い間、つらい思いをさせたことを、おわびしなければなりません」
 摂政は一通りの挨拶をした。ぼくは抑えかねた思いが、今にも破裂しそうになるのを感じた。すると、慇懃な物腰ながら、威圧的な目をした男は、作り笑いをしてこちらをなだめようとした。
「猊下のお住まいにお移りいただいてから、詳しいお話はいたしましょう。侍従を遣わしますから、その者に何なりとお申しつけください」
 人前ということもあるだろうが、摂政はぼくに何も話させようとはしなかった。「猊下」という言葉で、型にはまった振る舞いを強いようとしているのだ。怒りは摂政の冷たさで熱を奪われた。
 すぐに、小柄で丸顔の愛想いい男が現れた。摂政とは対照的に、強い者にへつらうタイプだった。摂政の近くに呼び寄せられ、何か指示を受けている様子だった。ぼくを懐柔させようというんだろう。
 侍従が戻ってきて挨拶するので、「よろしく頼む」と儀礼的に応じると、顔の端から緊張が解けていくのが見えた。摂政は一礼して去り、駕籠が二つ用意された。向かう先はラサの西にあるデプン寺だった。この時点では、まだポタラ宮の一部は未完成だったからだ。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 02:20| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする