2017年10月18日

ぼくがダライラマ?(23)

 パンチェンラマの呼ぶ声がした。ぼくは眠っていたのだろうか。薄い雲が広がって、少しひんやりしてきた。切り立った崖の上に、巡礼が石を積んで作った塚があり、経文を記したタルチョ(祈祷旗)が、そよ風に揺られていた。ぼくが傍らに立つと、パンチェンラマは読経を始めた。ぼくも手を合わせると、見よう見まねで祈りを捧げた。
 突然、強い風が吹き上がって、塚の前に捧げられた紙の護符が、大量につむじを描いて上空に舞い、風に乗せられて湖水の方へ、ひらひらと落ちていくのが見えた。
「おお」
 パンチェンラマは声を上げて、驚嘆しているぼくの方を見た。ぼくはてんでばらばらに飛んでいくさまに、解き放たれたような自由を感じたが。これは何か未来を暗示しているのかもしれない。
 ぼくはあの護符のように、湖水の上を飛んでみたいと思った。湖面に漂う霧に向かって、昇るようにして落ちていく気がして、よろけて身を投げ出しそうになった。腕を支えてくれたのは、パンチェンラマだった。
「大丈夫か!」
 無言でうなずいたものの、先にパンチェンラマが声を出したことが気にかかった。自分ではどうすることもできない力に、とらえられているのを感じた。お母さんの顔が頭に浮かんだ。こちらを気遣っているような表情。日焼けして白髪も出てきていた。かわいそうなお母さん、と口に出そうになってこらえた。今頃はお父さんと再会していることだろう。

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 02:00| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする