2017年10月05日

ぼくがダライラマ?(20)

 パンチェンラマは、まじまじとこちらを見つめた。ぼくは心の中を見透かされた気がした。穏やかなまなざしの中に、相手を包み込む力のようなものが感じられた。黙ったまま、こちらが何を言うか促しているように見える。
「そなたは知っているんだろう。ごまかしてはいけない」
「知っているって?」
「ダライラマ五世は、そなたが生まれる前にお隠れになっていたのだ。新しいダライラマが成人するまでは、秘しておくようにとの御遺言だったのだよ」
 パンチェンラマは、それ以上説明しようとはしなかった。恐らく、チベット国内の情勢を何も知らないぼくに、実情を話したところで、混乱させるばかりだと思ったのだろう。
「今、そなたは髪を下ろした。何でこんなことになったのかという顔をしているね。ダライラマの生まれ変わりだなどと言われて、当惑しているのだね。正直言って、私も自分がパンチェンラマの生まれ変わりだと知ったときは、何で自分がまた、と思ったものだ」
「ならば、どうしてぼくの身になって考えて下さらないのですか」
「生まれ変わる以前のことは、物心つく頃には忘れてしまうものなんだよ。だから、言ったではないか。そなたはすべてを知っていたのだ。自分がダライラマの生まれ変わりであることを、故郷の村から連れ出されたときから」
 ぼくはわけが分からなくなった。お父さん、お母さんと一緒に、羊やヤクを育てながら過ごした頃は、ぼんやりした夢のようにしか感じられなくなっていた。
 当惑しているぼくを見つめると、笑顔の中に有無を言わさぬ力をひそめて続けた。
「これからは仏弟子として振る舞ってもらうことになる。山野で狩りをしていた自分は、かりそめの姿だったのだ」

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 02:13| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする