2017年09月21日

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け(第17作)

 古い時代には、文人や画家が手持ちの金を持たないときは、世話になった礼として書画を置いていったという。それが大家の手による物だと分かって、大騒ぎになるという話である。文人や画家は身なりに構わず、自由人で世間の常識なんかどうとも思っていない。今回登場する画家の池ノ内青観も、そうした人間である。
 昭和時代にはまだ、封建時代の遺風が残っていた。血筋がどうだの、あの方は世が世ならお殿様だったのだの、結婚するのに家柄が違いすぎるとか、そんなこと気にする人間がたくさんいた。現代人から見たらつまらないこだわりだが、自由な空気の中にも古い価値観が残っていた。明治生まれの老人が、まだ活躍していた時代である。
 寅次郎は酒場で青観と知り合い、気の毒な老人だと思ってとらやに泊まらせる。ところが、青観は宿屋と勘違いして、とらやの人たちに厚かましい態度を取り続ける。それが誤解だと分かったとき、ささっと描いた絵を礼として渡す。それが七万円で売れたので、青観が大家の先生だということが分かるのである。
 青観のお供をして、播州龍野を旅した寅次郎は、芸者のぼたんと意気投合する。その後、上京したぼたんから、金を騙し取られたことを聞いた寅次郎は、一肌脱ぎたいと走り回ることになる。今までにない話の展開に楽しませてもらったが、それは配役が素晴らしかったからでもある。画家の青観を演じたのが宇野重吉。こんな深みのある、内面が表情に出ている俳優は少なくなった。
 一方、ぼたんを演じた太地喜和子は、歌麿の浮世絵に出てくるような美人、江戸情緒を感じさせる女優だったが、深夜に車が桟橋から落ちるという事故に巻き込まれ、五十を前にして亡くなった。逸材が失われたことを、しばらく悔やんだものである。

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 05:48| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする