2017年09月02日

ぼくはネコなのだ(55)

 ある夜、いつものように、部屋の奥にある鏡が光っていた。テレビという名の板だった。めずらしいことに、そこにはネコが映っていた。鍋を持ったおばさんが出てきて、黒いネコに肉の塊をやっている。それを見た兄貴は駆け寄るなり、釘付けになってしまった。
 兄貴は自分も肉をもらおうと、そわそわしていたのだが、テレビの中のおばさんは、兄貴の方には見向きもせずに、うちの中に入ってしまった。そのネコはかわいい瞳の女の子だった。食べ終わると、こちらに流し目を送っている。兄貴はよだれを垂らして、頬にキスしたのだが、女の子の方はつんとすましたままだ。
 見境を失った兄貴は、前足で撫でようとしたり、体をすりつけたり、ネコなで声を上げたりした。反対側から抱えようとして、テレビの後ろに回った途端、女の子の姿は消えてしまった。
「おかしい、おかしい。どこ行ったんだ、カワイコちゃん!」
 気の毒になったので、兄貴に言ってやった。
「それはテレビっていう機械なんだよ。厚みのないネコなんかいるわけないだろ」
 兄貴がテレビの前に戻ると、そこには何も映っていない。番組が終わったので、おばさんがスイッチを切ったからだった。(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 04:08| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする