2017年07月24日

ぼくはネコなのだ(50)

 こんな大きな建物の中に入るのは初めてだった。天井の明かりがついていないから、一列に続く廊下は昼でも薄暗い。兄貴は長い階段を上っていく。後を追って上ると、廊下に沿って同じような部屋がいくつも並んでいた。女の人の声が聞こえてくる。窓は開いているのだが、下からでは中は見えない。
 ところが、一つの教室の後ろの戸が、少しだけ開いていた。止めようとしたんだけど、兄貴は部屋に入ってしまった。ぼくはこわくて、入口から恐る恐る中をのぞいた。子供たちがネコ、ネコとしゃべる声がした。兄貴は机の間をぬって進んでいく。ずっと授業をしていた女の先生が、大きな声で怒り出した。それに対して、子供たちはどっと笑い出した。
「キーン・コーン・カーン・コーン・キーン・コーン・カーン・コーン……」
 けたたましい鐘があたりに鳴り響いた。この世の終わりを告げる時が来たのかと思った。
 そのとき、後ろから誰かがぼくの背中をつかんだ。太った男の子だった。爪を立てて暴れたら、今度はしっぽをつかまれた。図体が大きなくせに、思いやりというものがない。学校では一体何を教えているんだ。しっぽでぼくを引き回すものだから、目が回って吐き気がした。
 兄貴を助けるどころではなかった。しっぽが引きちぎられそうになった。階段の手前で投げ出されたので、一目散で階段を駆け下りた。後ろからは、虫のように子供たちがわき出してきた。
「あっ、あそこにもネコがいるぞ!」
 ぼくは兄貴のことは見捨てて、建物の外に出ると、そのまま草むらに向かって駆けていった。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 00:19| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする