2017年07月16日

ぼくはネコなのだ(49)

 酔いがさめた頃、兄貴がぼくに尋ねた、どうしておまえだけ、人間の言葉が分かるんだと。そんなこと言われても分からない。誰か教えてくれないかというので、人間には学校というものがあると答えておいた。
「ネコの学校はどこにある?」
「そんなもの、あるのかな。うちは母ちゃんが行方知らずだし、父ちゃんは誰だか分からないし、ママチチはあの世に逝っちゃったし」
 それからというものの、おばあさんが大学に行きたがるように、兄貴は学校へ行きたがった。そこで、久し振りに丘の上にある小学校へ、兄貴をつれて行ってみることにした。大きな建物の前の庭で、新入生の子供たちが、白と赤の帽子にシャツと短パン姿で並ばされていた。けたたましい音楽が鳴り出すと、それに合わせて両手を振りながら、行進させられている。
「なんか真似してるだけだな。つまらない。あんなことして頭が良くなるとは思えない。第一、ネコが出てこないんだから、おれにとっちゃ、何の役にも立たないよ」
 わざわざネコに案内させておいて、それはないだろと思った。ただ、人間は機械みたいに動く練習してるだけじゃない。あの建物の中で勉強してるんだろうと言ったら、兄貴は走って学校の門の中に入ってしまった。(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 11:01| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月15日

ふたたび沖縄へ(4)

 園内を見て歩くと、目に入る物すべてが記憶からよみがえった。五年前とほとんど変わっていない。水牛に臼を引かせて、黒砂糖を作っている。ハブとマングースの闘いもやっている。滋養強壮に効くというハブ粉も売っていた。試しになめてみたが、死んだトカゲの味といった感じで、このままじゃちょっと無理だ。毒のない大蛇をお客の首にかけている。いくら蛇革で金運が上がると言われても、生きていて動くのはちょっとごめんだ。
 祭りの様子を表した人形にも目が向いた。爬竜船(はりゅうせん)に乗り込んだ漕ぎ手らが速さを競うハーリー。海の向こうの理想郷、ニライカナイから神を迎えるウンジャミ(海神祭)では、弓矢や槍を用いてイノシシや魚を捕らえ、舟を漕ぐ所作をすることで、大漁豊作を感謝し、無病息災を喜ぶのだという。
 オバー(お婆さん)やアンマー(お母さん)のウチナーグチを聞いているのも面白い。これが古代の日本語に近いと言われても、ピンと来ないのだが、いかにも田舎のお婆さんの言葉といった感じで懐かしい。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 10:33| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月14日

男はつらいよ 寅次郎恋歌(第8作)

 今まで何回見たことだろう。このシリーズの中で「寅次郎恋歌」を見たのは、これで五回以上になる。日本語の教材にシナリオの一部が載っていて、読解の後に学生と見たものである。借りてきたDVDでは、日本語の字幕も表示できるので、江戸弁の早口でも、上級レベルの外国人学生なら理解できた。ユーモアとペーソスは、世界共通の感覚である。
 今回は妹さくらの夫、博の母が危篤になる。葬儀の場面に現れた寅次郎は、妻に先立たれた博の父としばらく過ごし、人間の本当の生活、運命に逆らわない生き方こそ、幸せな生活であると諭される。その場面に現れる竜胆(リンドウ)の花が、寅次郎の求めて得られぬ幸せの象徴として繰り返し現れる。
 今回、寅次郎が惹かれるのは、柴又に喫茶店を開いた未亡人の貴子である。内気な少年学と遊んでやることで、寅次郎は頼もしい人として貴子の目に映る。旅をしながらの人生を夢に抱き、寅さんと一緒に行ってしまいたいとまで洩らす。
 以前までの回とはちょっと空気が異なる。母子家庭の問題を抱え、女手一つで必死に子育てする姿が、単に色気のあるだけのヒロインにはない、ひたむきな印象を与える。初めて寅次郎の生き方に理解を示してくれる女性が現れたのである。とはいえ、このまま家庭を持ってしまったら、寅次郎の旅がらすの生活は終わる。貴子に思いを寄せられたまま、美しい思い出として胸にしまい、木枯らしの吹く夜に柴又を発っていく。このシリーズの中で、趣の深い作品の一つとして印象に残っている。

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
http://itunes.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


人気ブログランキングへ





ランキングはこちらをクリック!

posted by 高野敦志 at 01:39| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする