まだ潮が満ちているので、あのとき予想した通り、干潟は入江と化して、蛇行した川は水面(みなも)に没している。海中道路から島の方を向くと、ボートが二艘見えるし、弧を描く岸沿いを、ハイキングの若者が七人ほど歩いている。潮の満ち干って、まるで地球が呼吸してるようだと思った。人間とは比べものにならないほど、大きくゆったりとした息だが。もっとここにいたい……。ようやく島の空気にも慣れてきたというのに。もう時間がない。まだこの島の一部しか見ていないのに、早くも別れの時が迫っているのだ。
みどり荘に戻って、出発の準備をした。車で送ってもらうのはやめ、上原港まではゆっくり歩いていくことにした。荷物が重いので、少し行くと休んでは風景を眺めた。道ばたにはヒルガオが咲いている。雲が広がってきたので、意外と涼しかった。港に着いて岸壁から海面をのぞき込むと、無数の魚が群れをなして泳いでいた。
石垣港行きの船に乗り込んだ。いよいよ別れの時が来た。僕はまた一人になってしまった。船は猛スピードで西表島から遠ざかっていく。まだほとんどこの島について知らないのに。いつの日か、また訪れることができるだろうか。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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ラベル:西表島,船浦大橋,干潟,上原港