2017年06月04日

ぼくがダライラマ?(3)

 次の年の春のことだった。ヒマラヤの雪が朝日を浴びて、橙色に輝いていた。前日まで吹き荒れた砂嵐もやんで、空気がこれほど澄み渡り、目に見えるものすべてが清められたのは久し振りだった。
 いつものように、ぼくは自分より一つ年下のヤクの背中に乗って、お父さんが羊を放牧している草原に出ていた。そこはうちからゆるやか坂を下っていった先にあった。風がほとんど止まっている。
 お父さんは羊たちに草を食ませて、やかんからバター茶を注いで飲んでいた。遠くから動くものが近づいてくる。
「あ、お坊さん!」
 ぼくは何気なく声を出すと、お父さんは振り返って、急に怖そうな顔に変わった。黄色い袈裟は新派の坊さんのものだから、お父さんがお祈りのときに着る赤い袈裟とは違う。しかも、この国を治めているのは、黄色い袈裟を着た坊さんなのだった。何も気づかぬ様子で、向こうの上り坂を通り過ぎてゆく。
 しばらくして、お母さんが駆け足でこちらにやって来た。引きつった声で叫んでいる。何かとんでもないことが起こったんだ。
「羊たちを見ていろよ」(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 01:38| Comment(0) | 連載 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする