2017年06月18日

西表島は日本のアマゾン(13)

 みどり荘のユースホステルに戻ると、同室の彼が帰ってきていた。浦内川の方には行ったのだが、あの大トカゲ、キシノウエトカゲが見られなかったことを残念がっていた。その後、星砂の浜にも行って、僕のことを探していたそうだ。その頃、僕は沖でシュノーケルをやっていたのだろう。
 夕食を取ってから、彼と上原の漁港に行ってみた。集会所ではちょうど、三線(さんしん)の練習をしていた。それとともにお囃子も聞こえてきた。「安里屋ユンタ」だろうか。彼の聞きたかった八重山民謡が、こうして生の形で聞けたのだ。
 空はすでに暗く、最初にこの島に来た時のように三日月が出ていた。岸壁につながれた船の前で、お互いを写真に撮り合った。沖は黒い輪郭にしか見えなかった。そのとき、がさがさっと音がした。あわててシャッターを切ったのが、果たして何が写っているだろう。イリオモテヤマネコ? それともハブか?(つづく)

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2017年06月17日

ぼくがダライラマ?(7)

 弾き終えたところで、ぼくの頭をなでて体を抱きしめてくれた。何で家族が別れ別れにならなければならないのか、そのときのぼくには分からなかった。けれども、それが避けられないことで、運命を受け容れるという点で、この国の人間は従順なのだということは感じていた。床の上に立ち尽くしていると、お母さんが寝床に連れていってくれた。
 ぼくは眠ったのだろうか。それとも、この家に生まれてからの出来事を思い出していたのだろうか。お父さんとお母さんが、まだ何か話してる声が聞こえた。いちばんつらかったのは、お父さんだったのかもしれない。
 東の空が白んできたようだ。窓からぼんやりした光が差し込んでくる。遠くで鳥の鳴く声がしたが、村人はまだ起きていないだろう。ぼくは着替えさせられた。すでに火が起こされていて、熱いバター茶が入れられた。お父さんが目をこすりながら出てきた。これが最後の食事? お母さんが震える手で、茶碗をお父さんに渡した。本当はまだ話し足りないことがあるはずなのに、ほとんど無口でバター茶で練ったツァンパを口に入れていた。(つづく)

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2017年06月16日

ぼくがダライラマ?(6)

 ぼくはまだ何も知らなかった。こうした生活がいつまでも続かないということを。口の周りをべとべとにしながら、トゥクパを食べていた。
 そのうち、何かがおかしいことに気がついた。チャンを飲んでいるのに、お父さんが口をつぐんだままだったからだ。お母さんは羊のゆで肉をほぐしながら、お皿の上にのせてくれたのだが、袖口で目の縁をぬぐっている。
「どうしたの。何がそんなに悲しいの?」
 お母さんは顔をあげて、作り笑いをした。
お父さんに何か言ってもらおうとしても、チャンを飲み続けるだけだった。
「一緒に食事するのは楽しいわよね。今日の日のことは、決して忘れないわ」
「おい、やめろ!」
 お父さんは小声で言うと、膝の上に乗るように手招きした。何も知らずに乗っかると、大きな掌でぼくの頭をなでた。
「よく聞け。おまえは明日から旅に出る。お母さんの言うことをよく聞くんだぞ」
「えっ、旅行って? お父さんも行かないの?」
「ヤクや羊の世話があるだろ……」
 お母さんは袖口を押さえたまま、寝室の方に走っていった。ぼくが追いかけていこうとすると、お父さんは「ここに座れ」と正面の椅子を指さした。部屋の隅に置いてあったダムニェン(チベッタン・ギター)を取ると、即興で弾きながら歌い出した。言葉が難しくてよく分からなかったけれど、門出を祝うメンパ族の歌であるらしかった。(つづく)

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