2017年06月30日

ひめゆりの塔と沖縄戦(3)

 平和記念堂の美術館を見て回った。そこで印象に残った絵画について記そう。黄色い夕焼けをバックにした守礼門。夏の海に浮かんだ赤い花。雪原で夜明けを眺める鹿。光の中しぶきを飛ばして駆け抜ける天馬。
 記念式典が行われる広場を過ぎ、平和祈念資料館の方に向かった。そこで見られたのは、沖縄戦で起きた悲劇の連続だった。昭和二十年、米軍の本島上陸が近づいた頃、米軍の戦艦が慶良間諸島を包囲すると、島民の多くは自決を余儀なくされた。ネコイラズ、殺鼠剤を持っている家はうらやましがられた。これを大量に摂取すると、吐いて助かってしまう。それがないうちでは、家族同士、ナイフで殺し合った。夫が妻や子供、老人を刺した。そして、仲間同士でも。
 首里が陥落すると、日本軍は喜屋武(きゃん)半島へと転進した。退却という言葉を使うと、国民の士気が下がるとして「転進」という言葉がニュースで流されていた。そこで米軍を疲弊させ、国体の護持、天皇制の存続という条件を米軍に呑ませた上で、終戦に持ち込もうとしたのだ。(つづく)


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2017年06月29日

ぼくはネコなのだ(47)

 それから、極ネコは次第に物を食べなくなった。外は霜柱も立つほどだから、小屋も玄関の中に移動していた。兄貴やぼくが近づいていっても、ぼんやり見ているだけで、心はどこかに飛んでいってしまったみたいだった。
 その日は風もなく暖かなので、日に当ててやろうと、小屋も外に出して日向ぼったできるようにしてあった。極ネコは小屋の中に置かれた湯たんぽの上で、うつらうつつらしている様子だった。「寒くないから」と兄貴を誘って、ぼくらも庭で追いかけっこしていた。
 昼過ぎになって、外出していたおじさんの声がした。ぼくはうれしくなって通りに駆けていくと、見たことのある男の人が横にいた。おじさんの友達で、くまモンのシャツをいつも着ているくまモンさんだった。でも、この前来たときと何か様子が違ってる。いても立ってもいられないみたいで、門を入るとおじさんよりも先に、玄関の方に走っていった。
「イオ、イオ、イオ」
 それはくまモンさんが以前飼ってたネコの名前で、病気で数年前に死んでしまったという話だった。それなのに、くまモンさんは極ネコの毛並みがイオに似ていると聞いて、駆けつけてきたのだった。
 くまモンさんは手を差し出した。すると、知らない相手には「ガー」と威嚇の声を出していたのに、抵抗することもなくくまモンさんに抱かれているのだった。
「間に合ってよかったな」
 おじさんが声をかけると、くまモンさんはうれしそうな顔で、極ネコの顔をこちらに見せた。不思議なことに、うれしそうに目を細めて、口もとが笑っている。そして、かわいらしい声で「ニャー」と鳴いた。
 極ネコはそのまま動かなくなった。くまモンさんは抱きしめたまま、涙をこらえている様子だった。兄貴とぼくは呆気にとられて、その場面をじっと見上げていた。本当は極ネコとイオは関係なかったかもしれない。でも、くまモンさんはイオに再会できたと喜んでいたし、母ちゃんの連れ合いだったネコが、赤ちゃんみたいに抱かれて息を引き取ったのだから、ぼくたちもしんみりした気持ちになった。(つづく)

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2017年06月28日

ぼくがダライラマ?(9)

          二

 ラサまでの道のりは、延々と続くはずだった。日が西に傾きかけた頃、お母さんとぼくを乗せたヤクは、外壁の崩れた山門をくぐっていった。今夜はここで泊まるのかと思った。寺の本堂からは、経文を唱える小僧の声が聞こえてくる。
 通された庫裏で、出されたバター茶を飲んでいたが、初老の役人はいつまでたっても現れなかった。お母さんの顔を見ると、不安そうな様子で落ち着きがない。ぼくはたまらなくなって、境内の方に走っていった。乗ってきたヤクの姿はなかった。牛飼いもどこに行ってしまったのか。
 小走りで部屋に戻ってくると、ちょうどこの寺の僧院長が、お母さんと話し込んでいるところだった。あごひげも白髪交じりだが、目だけはぎらぎら光っている。
「では、私たちはいつまでここにいるんですか」
「さあ、聞きたいのは拙僧の方だよ。ラサからお達しがあるまでは、あんたたちの世話をするように命じられているんだから」
 ぼくが座り込むと、あごひげのお坊さんは顔を眺め回して、頭の方に手を伸ばしてきた。その途端、お母さんはぼくのことを抱きしめた。寺ではどんなことが行われているか、聞き知っていたからだろう。それを見て不愉快そうに肩を上げると、大きな息を吐いて下がっていった。
 僧院長がいなくなると、お母さんはぼくの体を放して、袖口で涙をふいていた。だったら、お父さんのいるうちへ逃げ帰ればいいのに。ぼくが耳もとでささやくと、お母さんは黙って首を振った。寺の山門には見張りの僧兵もいたし、そんなことをしたら、どんな仕返しをされるか分かったもんじゃない。こうして、お母さんとぼくの幽閉生活が始まった。(つづく)

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