2017年05月07日

ぼくはネコなのだ(33)

 夫婦げんかはイヌも食わないって言葉が、人間の世界にはあるらしい。もちろん、ネコだって食わないよ。おいしくない物だったら、おなかが減ってても食べない。まあ、今は黙っててもえさが出てくるから、こんなこと言ってられるだけかもしれないけれど。
 おばさんとおばあさんが、うちに戻ってきた日の夜、うちの中から激しい言い合いの声が聞こえてきた。これは夫婦げんかなどではない。もう若くはない兄と妹のけんかなのだから。
「だから、おまえは○○がしんじまってもいいって言ってるんだな!」
「よくもまあ、そんなこと言えるわね!」
 続いてドアが思い切り閉められる音がした。ぼくと兄貴は、柿の木の前で耳を傾けていた。くもりガラスを通して、おばさんらしい影が通り過ぎるのが見える。でも、意味が分かるのはぼくだけだった。兄貴は退屈したのか、木の幹で爪をとぎはじめた。
「兄ちゃん、しんじまってもいいとか言ってるよ。もしかしたら、ぼくたちのことかもしれない……」
「何言ってるんだ。おまえ、ちょっとばかり人間の言葉が分かるようになって、いい気になってるんじゃないか。ネコの言葉も十分に話せないくせに。すんじまってっていうのは、食事がすんでしまった。ごちそうさまってことなんだよ。おれもたらふく食ってみたいもんだよ」(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 00:57| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする