2017年04月27日

川平湾は海の花園(2)

 船底はガラス張りだった。緑色なのでそれほど鮮明には見えない。沖に停泊すると、大きな熱帯魚がたくさん現れた。色とりどりに泳ぐ姿に目を奪われる。海岸の珊瑚は石灰化して、生きているものは少なかったが、赤、紫、橙の珊瑚は大きく、悠然と枝を伸ばしている。
 海の花園と言っても、珊瑚はれっきとした動物である。熱帯魚にとっては隠れ家となるが、プランクトンを食する虫の集合体である。もし、こんな物が陸上にいたら、ちょっと無気味かもしれない。虫や小鳥を食べる木々が風に揺れていたら。
 確かに、イトマンジーと比べたら、美しさや豊かさの点で格段に上なのだが、珊瑚の間を自由に泳ぎ回るような感動はない。一体感がないのだ。テレビの中継を見ているのと同じである。じゃあ、潜ってみればと言われそうだが、川平湾は潮流の流れが速く、底では足を引きずられるという。
 警告を無視して入った若者が、命を失ったという話を、ペアレントの奥さんが話していたのを思い出した。川平湾の海の花園には、魔物の罠が仕掛けられているのだ。(つづく)


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2017年04月26日

ぼくはネコなのだ(28)

 すると、おじさんがすぐに、ぼくの口もとにも、肉の塊を差し出してくれた。頭の中がおいしい味だけになった。思わずのどを鳴らしてしまった。
 おばあさんが立ち上がった。つえをついて歩き出すと、「あっ、いつっ」と言った。顔がこわくなったから「痛い」という意味なのだと分かった。
「あっ、いつっ、あいつ、あいつはどいつ?」とおじさんが歌い出した。
 しばらくして、またおばあさんが戻ってきた。今度は「あっ、いてぇ」と言った。
「あっ、いてぇ、あっ、いてぇ、だれに会いてぇ」
 ぼくはおかしくなって、ニャーニャー笑ってしまった。兄貴は「何がおかしいんだ?」と首をかしげていた。
 おじさんがテーブルの上に、何やら紙をたくさん広げている。
「あしたは何時から授業なの?」
「大学は昼過ぎからだよ」
 だから、おじさんはいつも、のんびりしているのか。どうやら、大学という学校は、教える方も教えられる方も、寝ぼすけが多いと見える。丘の上で子供たちを教えていた学校とは、ずいぶんレベルが低そうだった。
 おばあさんは元の席に座ったのだが、何やら機嫌が悪そうだった。というより、明らかに怒っている。
「私は大学の先生なんだから!」
 おじさんとおばさんが顔を見合わせて笑った。やっぱり、おばあさんは少し、話していることがおかしい。先生だっていうのは嘘のようだったし、もしおばあさんでも務まる仕事なら、よほど子供の数が少ない学校なのだろう。(つづく)

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2017年04月25日

川平湾は海の花園(1)

 朝食を終えた。疲れていたので、九時半頃までのんびりした。ペアレントの奥さんに「川平(かぴら)湾は見ておきなさい」と言われたので、とにかく行ってみることにした。アットホームな感じで気に入ったユースホステル「トレック石垣島」だったが、ついに別れの時が来た。
 石垣港にいったん出て、コインロッカーに大きい荷物を預けた。身軽になったところで、川平湾までバスに乗った。ゆるいカーブを進むうち、ミルクを溶かした抹茶のような海が見えてきた。ここが石垣島で随一の美しさを誇る海なのだそうだ。
 バスを降りた途端、容赦ない真夏の日射しに目がくらんだ。あまりの光の強さで、目を開けていること自体が苦痛なのだった。グラスボートに乗るように言われていたので、人影がない船着き場に下りていった。これじゃ船は出ないのかなと思ったが、おじさんに話すと出してくれるとのことだった。(つづく)

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