その猫は白と黒のまだらで、目つきはきついが、やせ衰えた上に咳をしていた。子猫たちはストーブの前でぬくぬくしているのに対し、あまりに対照的な身の上なので、妹は情けをかけずにはいられなかった。
キャットフードを与えた上に、寒いだろうと湯たんぽまでしてやったのだ。体力が落ちていたので、与えた餌も食べきることができなかった。しゃがんで近づくと、野良猫らしく威嚇の声を出した。それでも餌を食べることで、少しは体力を回復していき、昼間は庭で日向ぼっこをしていた。
「あの猫、まさか」
「そうよ。子猫たちを追い払おうとしていた猫よ。あの頃はまだ肉がついていて威張っていたのに、こんなにやせ細っちゃって」
まだらの野良猫は、我が家の玄関先に居着いたように見えた。ただ、相変わらず食は細く、乾いたキャットフードは喉を通りにくいようなので、猫用の肉の缶詰に少しお湯を入れて、軟らかくして食べやすいようにしたら、喉を通ったらしかった。
次の日の午後、妹が水まきをしていると、猫はすうっと庭から出ていった。その日の夕方、餌の時間になっても現れなかった。そのまま、二度と姿を現さなかった。薄汚れて衰えたあの姿では、誰かに可愛がられてはいないだろう。
通りに出たまま力尽きたのか、自身の最期を人に見られたくなかったのか。なついたわけではなかったが、猫が消えたことはしばらく心に引っかかっていた。ただ、あのまま放置せずに、せめて最後においしいものを食べさせてあげたことが、せめてもの慰めになったのだった。
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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