2017年02月16日

山田洋次の『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』

 Amazonプライムの会員になったので、どんなビデオが見られるか調べたら、『男はつらいよ』のシリーズが多く登録されていた。フーテンの寅さんの映画は、今までに数本見てきた。日本語教育の教科書に、『寅次郎恋歌』のシナリオの一部が収録されいて、外国人の学生と一緒に見て大笑いしたものである。
 今回見たのは『口笛を吹く寅次郎』。制作年は1983年だから、僕がちょうど大学生の頃。実はそのとき、見たいなと思いつつ、そのままになっていた。寅次郎が袈裟を着て、坊さんの真似事をやると聞いていたので。『寅次郎恋歌』では、寅次郎の妹、さくらの夫である博の父に、平凡な日常生活の中にこそ、本当の幸せがあると諭され、寅次郎は真面目に生きようと思ったわけだが、今回は博の父の三回忌で、寅次郎が備中高梁にある博の父の墓参りをしたとき、酒に酔った住職と娘の朋子に出会ってしまう。
 二日酔いで体調の悪い住職に代わって、寅次郎が法事を行い、法話と称して馬鹿話を披露し、檀家の人たちを大笑いさせてしまう。寅次郎は博の父の法事でも、住職に付き従って袈裟姿で登場し、妹さくらは生きた心地がしない。
 今回は娘の朋子と寅次郎がいい仲になり、婿養子となるために、柴又帝釈天で僧侶の修行を願い出るが、三日坊主で終わってしまう。朋子が柴又にやってくるが、寅次郎は本心を言えぬままで幕切れとなる。寅次郎の失恋で終わる毎度のパターンである。その点、『水戸黄門』で、葵のご紋の印籠が見せられて、悪人どもが黄門様にひれ伏すのと大して変わらない。
 それでいて、『男はつらいよ』を見ていて楽しいのは、寅次郎と妹さくら、とらやのおいちゃん、おばちゃん、博の働く工場の社長など、家族と再会したような懐かしさを思い起こすからである。寅次郎の語りの名調子も、下町の義理人情も、思いを直接表現できないもどかしさも、個人商店が軒を連ねた街並みも、すべて昭和時代の風俗を伝えている。
 その頃青春のまっただ中にいた自分を、重ね合わせているのだろう。人生にはいろいろなことがある。大切なのは、人と人の心のつながりだということに、気づかせてくれるのである。一日中、スマホの画面を見続ける現代人を思うと、世の中が便利になった分、生き生きとした人とのつながりも薄れ、うそ寒い思いをせずにはいられない。

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2017年02月15日

ぼくはネコなのだ(13)

 枝にしがみついたぼくを追い越して、一気に地面に着地した。あんな高さから飛び下りる勇気なんか、今のぼくにはない。
「おい、ついて来いよ」
 通りを渡って、向かいの草むらに入っていった。迷路のような中を、頭を下げたり、引っかかる茎を足から払って、兄貴についていくのは容易じゃない。
「待ってよ。何でこんなことしなくちゃならないの?」
 息を切らして登っていくと、草の茂みが切れて、ぼくたちの住む二階屋が見下ろせる高台までやってきた。
「パトロールしなくちゃいけないんだよ」
「パトロールって?」
「ここがぼくたちのなわばりってことさ」
 そう言いながら、兄貴はしゃがんでおしっこをした。ぼくもまねっこして、連れションしていると、二階屋の前にワゴン車が止まるのが見えた。杖をついたおばあさんが、息子らしいおじさんに手を引かれ、車の前に出て行った。
「何してるのかな」
「さあ?」
 おばあさんは車で行ってしまった。少しして、おじさんも自転車で出かけていった。(つづく)

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2017年02月14日

ぼくはネコなのだ(12)

 そのとき、ぼくは向かいの窓ガラスに、杖をついたおばあさんと、髪の毛の短いおじさんが並んでいるのを見た。人間がこわいぼくは、すぐさま梅の枝から飛び下りたくなったが、兄貴はしっぽを振って呼び止めた。
「あの二人、親子だろ。人間はあんな年まで生きられるんだな」
 なるほど、おばあさんは白髪頭で、杖を握った手もふらついている。ネコの世界では、自分の父親さえ知らないことが多いのに、まして、おじいさんやおばあさんが誰なのか、知ってるネコなんかいない。ぼくたちのらネコは、子供を何匹か作って、病気したら、はい、さようなら。これから涼しくなり、寒い冬が訪れたら、ぼくと兄貴が生き残れるかも分からない。
「いつもえさをくれる女の人、誰なんだろう? 夫婦かな」
「さてね。よそのうちじゃ、いそがしそうにしてるけど、ずいぶんのんびりしてるじゃないか。いいご身分だよ」
 兄貴はクールなたちだから、えささえもらえれば、どうだっていいんだろう。(つづく)

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