2017年01月21日

ぼくはネコなのだ(5)

 引っ越しと言っても、隣の町ではなく、数軒先に過ぎなかった。生まれて間もない子猫をつれてだから、大旅行などできるはずもないからだ。
 そこには母ちゃんなりの智恵が働いていて、えさをくれそうな人間を見つけたら、天秤にかけて、どちらが安全そうか、おいしい食べ物を出してくれそうか選ぶためだった。元のうちがましだと分かったら、いつでも戻っていこうというつもりらしかった。
 塀を越えて入ろうとしたときだった。ぼくらはとんでもない光景を目にした。まだ目が開いてもいない赤ちゃんネコを、棒がついた網でつかまえて、次々に箱詰めにしているところだった。うちの前には車が止まっていて、無表情な顔した男が、子ネコたちを車の中に押し込んでいった。
「母ちゃん、あの子たち三味線になっちゃうの?」
「しっ!」
 いきなりぼくは口をふさがれた。苦しくて泣き出すこともできない。家の主人とネコを運び込んだ男が話していた。気が遠くなりそうになったとき、人間が何を言っているのか分かってしまった。
「かわいそうだけど、この子たちはガス室行きです。母ネコがいないネコは、一週間の猶予を与えることもできませんから」(つづく)

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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posted by 高野敦志 at 01:57| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする