2017年04月27日

川平湾は海の花園(2)

 船底はガラス張りだった。緑色なのでそれほど鮮明には見えない。沖に停泊すると、大きな熱帯魚がたくさん現れた。色とりどりに泳ぐ姿に目を奪われる。海岸の珊瑚は石灰化して、生きているものは少なかったが、赤、紫、橙の珊瑚は大きく、悠然と枝を伸ばしている。
 海の花園と言っても、珊瑚はれっきとした動物である。熱帯魚にとっては隠れ家となるが、プランクトンを食する虫の集合体である。もし、こんな物が陸上にいたら、ちょっと無気味かもしれない。虫や小鳥を食べる木々が風に揺れていたら。
 確かに、イトマンジーと比べたら、美しさや豊かさの点で格段に上なのだが、珊瑚の間を自由に泳ぎ回るような感動はない。一体感がないのだ。テレビの中継を見ているのと同じである。じゃあ、潜ってみればと言われそうだが、川平湾は潮流の流れが速く、底では足を引きずられるという。
 警告を無視して入った若者が、命を失ったという話を、ペアレントの奥さんが話していたのを思い出した。川平湾の海の花園には、魔物の罠が仕掛けられているのだ。(つづく)


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posted by 高野敦志 at 03:25| Comment(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ネルヴァル Nerval の短編「緑の怪物」(ePub)

 19世紀フランスの狂気の詩人、ジェラール・ド・ネルヴァルの短編「緑の怪物」を新訳でお送りします。夢と現実の間をさまよいながら、シュルレアリスムの先駆的作品を生み出し、20世紀になってから再評価されたネルヴァルですが、今回紹介するのは、ネルヴァルの狂気の側面がうかがえる怪談です。
 作中には多数の固有名詞が出てきますが、余り気にせずに読み進めて下さい。注釈は最低限にとどめました。以前、「緑の怪物」の要約をブログに載せましたが、今回はガリマール社版の『ネルヴァル全集』第3巻を用いて全訳しました。なお、筑摩書房の『ネルヴァル全集』第4巻には、中村真一郎訳の「緑の怪物」が収録されています。
(注、ジェラール・ド・ネルヴァルをフランス語で表記すると、Gerard de NervalのGerardは、本来ならeにアクサン・テギュ accent aiguが付きますが、文字化けが発生するため、アクセント記号は省いてあります。)

 以下のリンクから、拙訳をダウンロードして下さい。
lemonstrevert.epub

 iTunesからダウンロードする場合は、ミュージック→iTunes→iTunes Music→podcasts→当該のフォルダの下に、ファイルが入ります。
 IEでダウンロードした場合は、拡張子をzipからepubに変えて、下記のアプリでご覧下さい。

 ePubはiOSのiPadやiPhoneなどで読むのに適した形式です。iBooksやbREADER(http://breader.infocity.co.jp/)でご覧下さい。Windowsでは紀伊國屋書店のKinoppy(http://k-kinoppy.jp/for-windowsdt.html)が、最も美しくePubのファイルを表示します。Windows8用のアプリのEPUB Reader(http://www.skyfish.co.jp/epubreader.html)でも開けますが、一部のレイアウトが反映されません。

 ブラウザからePubを開く場合、Googleのchrome(https://www.google.co.jp/chrome/browser/desktop/index.html)なら、プラグインのReadium(http://readium.org/)をインストールして下さい。
 firefox(https://www.mozilla.org/ja/firefox/new/)にもプラグインのEPUBReader(https://addons.mozilla.org/ja/firefox/addon/epubreader/)があり、縦書きやルビなどにもようやく対応しました。

 なお、パソコンのiTunesで「購読」したり、iOSのアプリpodcast(https://itunes.apple.com/jp/app/podcast/id525463029?mt=8)でマイpodcastに登録すれば、確実に新しいエピソードが入手できます。


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posted by 高野敦志 at 02:17| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月26日

ぼくはネコなのだ(28)

 すると、おじさんがすぐに、ぼくの口もとにも、肉の塊を差し出してくれた。頭の中がおいしい味だけになった。思わずのどを鳴らしてしまった。
 おばあさんが立ち上がった。つえをついて歩き出すと、「あっ、いつっ」と言った。顔がこわくなったから「痛い」という意味なのだと分かった。
「あっ、いつっ、あいつ、あいつはどいつ?」とおじさんが歌い出した。
 しばらくして、またおばあさんが戻ってきた。今度は「あっ、いてぇ」と言った。
「あっ、いてぇ、あっ、いてぇ、だれに会いてぇ」
 ぼくはおかしくなって、ニャーニャー笑ってしまった。兄貴は「何がおかしいんだ?」と首をかしげていた。
 おじさんがテーブルの上に、何やら紙をたくさん広げている。
「あしたは何時から授業なの?」
「大学は昼過ぎからだよ」
 だから、おじさんはいつも、のんびりしているのか。どうやら、大学という学校は、教える方も教えられる方も、寝ぼすけが多いと見える。丘の上で子供たちを教えていた学校とは、ずいぶんレベルが低そうだった。
 おばあさんは元の席に座ったのだが、何やら気分が悪そうだった。というより、明らかに怒っている。
「私は大学の先生なんだから!」
 おじさんとおばさんが顔を見合わせて笑った。やっぱり、おばあさんは少し、話していることがおかしい。先生だっていうのは嘘のようだったし、もしおばあさんでも務まる仕事なら、よほど子供の数が少ない学校なのだろう。(つづく)

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