2019年06月17日

尻に敷く

 今は昔、尾張国に木下藤吉郎という草履取りがいた。ある寒い朝、主人の織田信長は草履をはいた途端、「きさま、尻に敷いておったな」と怒鳴った。藤吉郎はすかさず胸元を広げ、「殿のおみ足がこごえぬように、温めていたのでございます」と申し上げた。これをきっかけに信望を得た藤吉郎は、天下取りへの足がかりを得ることになった。
 それから五百数十年後、アメリカの植民地となった日本の首相が、宗主国の親書を携えて中東に旅立った。ところが、相手国から受け取りを拒まれたため、尻に敷いて隠していた。それが写真に撮られて、インターネットで大騒ぎになったが、日本の新聞は「アメリカを尻に敷く偉大な指導者」として首相をほめたたえた。


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posted by 高野敦志 at 00:24| Comment(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ネルヴァル Nervalの「緑の怪物」(pdf)

 19世紀フランスの狂気の詩人、ジェラール・ド・ネルヴァルの短編「緑の怪物」を新訳でお送りします。夢と現実の間をさまよいながら、シュルレアリスムの先駆的作品を生み出し、20世紀になってから再評価されたネルヴァルですが、今回紹介するのは、ネルヴァルの狂気の側面がうかがえる怪談です。
 作中には多数の固有名詞が出てきますが、余り気にせずに読み進めて下さい。注釈は最低限にとどめました。今回はパソコンですぐに開けるpdf版です。Adobe Acrobat Readerの「フルスクリーンモード」だと、バーチャルな書籍がモニターに再現されます。
 以前、「緑の怪物」の要約をブログに載せましたが、今回はガリマール社版の『ネルヴァル全集』第3巻を用いて全訳しました。なお、筑摩書房の『ネルヴァル全集』第4巻には、中村真一郎訳の「緑の怪物」が収録されています。
(注、ジェラール・ド・ネルヴァルをフランス語で表記すると、Gerard de NervalのGerardは、本来ならeにアクサン・テギュ accent aiguが付きますが、文字化けが発生するため、アクセント記号は省いてあります。)

 以下のリンクから、拙訳をダウンロードして下さい。
lemonstrevert.pdf

 iTunesからダウンロードする場合は、マイミュージック→iTunes→iTunes Music→podcasts→当該のフォルダの下に、ファイルが入ります。大部分のパソコンにインストールされているAdobe Readerで読むことができます。

 なお、パソコンのiTunesで「購読」したり、iOSのアプリpodcast(https://itunes.apple.com/jp/app/podcast/id525463029?mt=8)でマイpodcastに登録すれば、確実に新しいエピソードが入手できます。


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posted by 高野敦志 at 00:13| Comment(0) | 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月16日

ぼくがイヌ派だった頃(5)

 夏も終わりに近づき、うだるような暑さが和らぐと、母に連れられ丘の外れにある谷間へ出た。狭い下り坂の両側には、樹齢数百年の杉の並木が日陰を作り、ひんやりする霊気を漂わせていた。ささくれた樹皮の面には、ヒグラシが止まっており、物悲しい弦楽器の音を響かせていた。
 うねるような脇道を進むと、納屋の奥には藁ぶきの農家が現れた。縁側の戸はすべて開け放たれ、古い柱のそばでは頬かぶりをし、藍の着物にもんぺを履いたお婆さんが座り、キュウリの棘を削り落としているのだった。庭先では卵を採るための茶色の鶏のほか、白い体に黒く立派な尾羽を立てたチャボも、地面にまかれたえさをついばんでいた。その日、母はもいですぐのキュウリとナス、産み立ての卵を譲ってもらいに、知り合いのお百姓さんを訪ねたのだった。
「野良さ出かけて、誰もいねえんだ」
 お婆さんは太い枝を切っただけの杖をつき、ただでさえ曲がった腰を、さらに「つ」の字に折って、庭の陰や庭石の後ろなど、鶏が卵を隠しそうな所を見ては、一つ一つ竹のザルに集めていった。
「ほら、触ってみい」
 脇からのぞき込んでいたぼくは、渡された温かい卵を、落とさぬように掌で包むと、頬にも当ててみた。そのお婆さんも、ほどなくして亡くなり、藁葺きの家も田畑が高く売れたおかげで、成金趣味のお屋敷に建て替えられた。クロと走り回った丘も造成されて、今では団地が建ち並んでいる。(つづく)


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